感想掲示板

13年度大祭本 はばたき  - 北川 青

2013/12/24 (Tue) 18:09:13

遅くなりましたが、感想を述べさせていただきます。敬称略に、目次の通りに書いていきます。


ファミリーレストラン 神山律作

 正直に言えば感想らしい感想を書くことが非常に難しいです。読後しばらく考えましたが、現代のピーターパンみたいな感じなのかな? という言葉をひねり出すまで少々時間がかかりました。なんと表現すればいいのか頭を悩ませますが、陰鬱とした始まりだったと思います。これといって特徴のない都会の隅っこで、太陽も分厚い雲に遮られたその下、主人公はエレオノーラに辟易している。レストランだからたくさんの人が周囲にはいるけれど、ほとんどが袋小路に迷い込んだみたいに縮こまっている。たくさんの色が灰色に押しつぶされてしまったような空気でした。
 だけどなんだかこう……終盤になって色が弾けるんですよね。暗澹としていたレストラン内にいきなり赤やら青やらとにかくたくさんの色が爆発して、某芸術家の「芸術は爆発だ!」を思い出させるような膨らみ方をし、惑う人間たちの中で二人は笑っているっていう。これで最後の台詞できれいに収束するのだから、むしろあっさりとした終わり方に呆然としました。私がこの小説から受ける諸々の驚愕はおそらく、主人公たちではなくエレオノーラのような、巻き込まれて理解の追いつかないレストランの人間たちと同じであると思います。だから主人公たちをピーターパンとしか形容できなかったのですが。
 前作では主に情景描写に気を取られていましたが、平易な言葉で人間たちの特徴を表すことも凄いななんて思います。客一人ひとりがそれぞれさまざまに、簡便に人生とか職業とか説明しているものだから客が没個性になっていなかったと思います。いろんな性質の奴らを一箇所にぽんと投げ込んだみたいでした。楽しかったです、ありがとうございました。


別れは鳴る、孤独は沈む 廃場 楠雄作

 きれいに話を纏めたなと思います。一番最初がある意味で一番の伏線になっていたのでしょうか。二人とか、そんなことはたしかに限定されていなかったね、たしかに。パラレルワールドと現実世界を混ぜ込んだような世界観だなと思いました。とりあえず唯ちゃんいい子、かわいい。
 こういう非日常を垂らした世界はもし現実世界が本当にそうだったら? なんて考えさしてくれるので私的に読んでて楽しいです。そして覚えてはいないけれど心が揺らいでしまうという最後も、たしかに使い古されてはいるけれど素敵な場面だと思います。それだけの大切なことがあるということですから。
 主人公の心情がメインに描かれているので感情移入がしやすかったところがあるように思えます。同時にこの年頃の子供っぽさというものも若干含まれていたような。主題のドッペルゲンガーも最初から提示されているので展開に驚くというよりは、筋書き通りの展開を追っていく感覚で読めたかなと感じます。個人的には柴山はよくも不審者で通報されなかったなと。年頃の女の子にいきなりの問いかけは防犯上やばい気がするのです。


世界前線 水前寺 夕子作

 なんと感想を書けばいいでしょう。もしや次回の新歓本等にこの続きとかが掲載されるのでしょうか。最後の軍勢があっけなく散ってしまって、いっそ哀れに思えました。
 しかしこの登場人物たちはひとつのものに縋っているんですよね。そのためだけに生きてるっていうのも心底かわいそうなんて思ってしまうんですが。SF小説を思い出します。あまりその手のジャンルには詳しくないのですが、機械が永遠に組み立てられていくけれど命令を出す上位者がいないから機械はただ惑うだけっていう。
 壁の正体がわからないんですよね。けっきょく乗り越えられないものにひたすら登場人物を体当たりさせるためだけに生み出されていたとするのなら、聖女とやらは非常に趣味が悪いと思いますが。これ以上書き綴ると本当に私の妄想にしかならないので止めておきます。
 余談ですが宣誓はかっこいいと思います。こういう台詞を思いつくのも才能ではないでしょうか。

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