感想掲示板

13年度大祭本 巣立ち - 北川 青

2013/12/03 (Tue) 19:02:47

遅くなりましたが、感想を寄せさせていただきます。ネタばれじみたものがたくさんと予想されますので、お気をつけください。敬称は略させていただきます。


線路上の天道虫 森山 十馬作

 雰囲気がロシアのシベリア鉄道みたいですね。窓向こうに広がるタイガと、過ぎる残像が視覚にこびりつきます。表現方法が非常に独特です。あえて本質の手前で言葉を止めて、私の読解力不足もあるとは思いますが、読者に自ら考えさすような、想像に任せようとする感覚を受けました。空間を構築するのが上手いなと思います。どっちかって言うと木造建築じゃなくて石畳とか、西洋の建築様式のほうが文体に似合うななんて考えるんですけど、これは蛇足です。
 主人公は空っぽですか。主人公は母親と自分、どちらを人間だと認識しているんでしょう。ここが私の答えの出ないところです。私には主人公が自らを死人、もしくはどこかぽっかりとした空虚を貼り付けながら生きている存在として思いました。この(私が思うに主人公の)自分が自分でいない感覚はおそらく、猫がいなくなった瞬間から巣くっていたような気がします。猫はある意味、主人公の拠り所、あるいはそのものであると投影されていたような気がしてなりません。そうであれば、彼女は人殺しです。線路にはいつくばって許しを請うことでしょう。沿線に暖かい日のあたる場所はありません。これは作者なりの、皮肉でしょうか?
 本来多彩色であるはずの世界がモノクロにかすんでしまっているような印象を受けました。ここらへんは前作と似通っていますね。こういった雰囲気がお好みなんでしょうか。雰囲気をつくり、かつその空気を持続させるのが得意なように思えます。こんなのも好きですけど、もっと鮮やかに色づいた世界を作者さんがどう書くのかちょっとした興味もあったりして。


あんたは強くて、君は優しい 無人島之帝作

 山本ふざけんな。
 構成が単純で非常にわかりやすいです。さっさと入り込めてそのまま終わりまで行けますので、とても読みやすいと思います。私は女なので冒頭の一言にすべて集約することができますが、男性が読んだらまた違う一言になったりするのでしょうか。こういった恋愛物語は私とは縁遠い世界なのであんまりどうこうわからないんですが、幸せとか、思い出の表現がとてもかわいらしいです。こんな風に女の子を描けるのは素敵だと思います。
 小説の長さに対して、すこし登場人物は大目ですね。主人公の過去の出来事とかがけっこういきなり放り込まれてきてびっくりしたりすることがありました。前から思っていたことですが、文章中に妙な勢いがありますね。一文一文わかりやすい表現がのぞいています。だらだら続けられるだけの文章を書く私ですので、その点見習うべきだと思います。
 結論として、女の子かわいい。


トゥルーエンドへの歩 こばると作

 ちょっと構成がわかりにくいかな、なんて思います。物語のプロローグ的な話でしょうか。途中からの主人公の追い詰められっぷりがすばらしいと思います。むしろもっと追い詰めてもいいんじゃないかなんて考えたりしました。ごめんなさい。
 設定的に現在の自分と被りまくりで見知らぬ誰かに土下座かましたくなりました。誰かにとってはいい迷惑です。勝手に自分への戒めだと読んでます。
 主人公やゴスロリ金髪(私命名)はキャラが立っていていいと思いますが、私的に切り裂き女(私命名)がなんだかかませ犬っぽい役割が悲しかったです。あっさりとして、余計なものが省かれた文章が読みやすいです。会話文に主体を置いた書き方で疾走感の演出ができていると思います。個人的には、廃工場とかクライマックス的なところは、もう少し情景描写で迫りくるようにしてもよかったんじゃないかななんて思います。
 主人公が自らを取り戻しハッピーエンドだと思うのですが、物語の全貌がまだちょっとわかっていないので、次にあったときに教えてくださったら嬉しいです。

Re: 13年度大祭本 巣立ち - 北川 青

2013/12/03 (Tue) 19:36:49


聖 誤字脱字訂正丸作

 やさしい表現の多用なのに紡がれる物語は悲しいです。ガラス一枚の向こうから思い出を語っているような透明な雰囲気がきれいです。構成がわかりやすく、そのぶん最初のほうから展開は少なからず読めました。それでも飽きることなく読めるのはやはり表現方法の豊かさと無理のない展開、ゆったりとした進みによるものだと思います。
 主人公視点の物語なのに、主人公の心情よりも聖の情報やきっと彼は今このように考えているという考えが頭の中によぎっていくのは不思議ですね。それほど主人公がつぶさに彼を観察しているという証明なんでしょうか。異性を主役にしてこれほど繊細な物語を書くことができることがすごいと思います。
 聖はけっこう最初から鬱屈しているような感じを受けます。外側に欠点がない分、内側に溜め込んでいくタイプの人間。個人的に彼は、猫が話す然り、読み聞かせできるようなやさしい子守唄っぽい物語を書くと思います。物語が完結したから消えたのか、たぶん、油断しちゃったんだろうなあと思うんですけど。よく似た二人の物語だと思います。その面が表に出るかどうかは別にして、感受性が強くそのぶんだけ外からの外傷に弱い。聖のほうが、すこしだけ弱くて二人でちょうどいいくらいだったんだろうなあと勝手に考えています。


電車内 早松 圭作

 視点がころころ変わりますけれど、時間軸が同一で2人が互いに説明しているだけなので、理解しやすいですね。構成が面白いです。二人はお互いに自分たちより一段階前の自分を覗き込んでいたりして、やさしい物語だなと思いました。
 大学生を見守るOLさんがいいなと思います。大学生は彼女にとって一段階前の、楽しい思い出を手にしている自分の体現のようなものですから。明るい季節が二人の行き着く先にはあります。希望のある物語は素敵ですね。静かに進んで、大きなアップダウンがあるわけでもなく、ただただ心のうちで息を潜めている。それなのにあったかな文章ですから、癒されます。
 あまり会う機会はないですけれど、作者さんの楽しい思い出のひとつでも作れたらいいなと思っています。これからも作り出されるであろう文章を、心待ちにしています。


人形店の花々 北川 青作

知るか。

Re: 13年度大祭本 巣立ち - 北川 青

2013/12/03 (Tue) 20:33:40

別離 葛もち作

 短いけれどとてもきれいです。一文一文に織り込まれた情景描写とつりあう心の揺らめきとでも言うのか、そういったのがやさしいなと感じました。すごい小僧を撫でたいです。むしろこの一場面を万華鏡にして楽しみたいです。くるくる色を変えて、模様の移り変わり光の変化を心行くまで楽しみたい。
 人間の心情変化に定評が在ると勝手に考えています。小僧の行く末が楽しみです。これだけの短さの中に、きっと彼が大人になっても覚えているであろう印象的な思い出を書き上げるのはすごいと思います。


もはやこれは青春ラブコメではなくなっている やまあらし作

 まず勢いに押されました。なんやかんやでも言いましたが、会話文重視のつくりのためにテンポよく読むことができます。ただそのぶん、心情に読み手の意識が向かないことがあるかもしれません。私としては従姉妹さんのキャラの濃さに若干引いておりましたので、意一番最初の感想が従姉妹怖いだったりしますが。
 ギャグが書けるというのが心底、本当に、羨ましいです。そのアイデアをほんのちょっぴりでもわけてくれないものかと狙っているんですが、今のところそのような兆候が現れないことを悔しく思っています。一番最初の彼女の性格が私にとって一番の悩みどころです。彼女の言葉を、最初から遊び、もしくは飽きたのどちらかで解釈することで主人公の心情への理解が変化していくと思いますので。惚れやすかっただけなのかな? なんて好意的に解釈するには、主人公を振った後の行動がいやに人をどのように傷つければ効果的かをわかっていてやっているようで、少しばかり辛いものがある気もします。だから女は怖いんだ。
 でもこの主人公の性格も、けっこう惚れやすいところがありますよね。容姿から好きになるタイプの人間な感じがちょっとしました。しかしこうもぐずぐずと失恋引きずる男もちょっと面倒くさいので、そこらへんあっさりした方がストレスないよと慰めたくなりました。まあ、そんなところはどうでもいいのですが、できれば情景をもう少し増やして欲しかったかななんて思います。けっこう展開が読みやすかったその背景には、少ない情景描写のほとんどが、重要な伏線と重なってしまってることも関係している気がするので。あとは私の好みです。真に申し訳ありません。


夢の花 ごりごりごりっP

 嫁さんかわいい。全体的に女性がかわいい。くり返されるカレーと生ゴミ。辛口評価すばらしい。
 時系列がけっこう入り組んでいて出来事の順番を整理するのにすこし労力がかかったかな? 問題ないくらいですけど。彼女さんは年の割りに未来見据えてて強いなと感心しました。そうじゃなきゃ大成はできないかもしれないですね。
 文章自体はあいかわらずすっきりしていて、感情と事実が偽りなく表されていると思います。素直だな、なんて思っています。彼女と夫婦はもう交わらない道になりましたが、それが彼らの幸せの形だとかいわれるものですよね。花火は輝くから美しいのであって、埋もれてちゃあ湿気るだけだし。
 しかしカレーぐらい適当にやれば普通の味になるじゃないか、何故できないこの主人公。なんて意味のないこと考えたり。

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